主人公、野々宮彼方 は苦学生。
一年前失踪した両親の代わりに妹 と自身の生活費を捻出するため、バイトに明け暮れる毎日を送っていた。
せっかく特待生として入った音楽学園でもロクに授業も受けず、部活にもまるで顔を出さない。
「音楽でメシは食えない。そんなヒマがあったらバイトしていた方がずっと有意義だ」
そうのたまうかつての天才少年を、周囲の人々は呆れつつも温かい目で見守っていた。
――しかし、平穏な日々は長くは続かない。
彼方 は学園から特待生資格を剥奪すると言い渡される。
免除されていた授業料の全額返還を迫られ、窮地に立たされる彼方 。
そんな中、学園理事の孫娘である先輩、多々良真奈の取り計らいで卒業式で音楽活動を再開させれば再び特待生に戻るチャンスが与えられることになる。
「彼方くん、伝説の学生カルテットを復活させるんや!」
まるで運命の女神が音楽をやめることを許さないかのような状況。
彼方は嘆息しつつも一年ぶりにチェロを手にする。
かってのカルテットの仲間、マイペースな唯我独尊美少女、一 桜。
カルテットが解散した後も一人黙々と音楽を続けてきたブラコン妹、野々宮 藍。
彼方を敵視する絶対零度、スーパークールビューティー悠木 夏海。
そして、才能はあるがやる気はまるでない主人公、野々宮 彼方 。
ギクシャクを通り越してガタガタな人間関係の中、
はたして彼方は音楽への情熱と失った友情(あと特待生の資格とか色々)を取り戻すことができるのだろうか?!
ALcotハニカム 春季限定ポコ・ア・ポコ 公式HP STORY より引用
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・キャラクターの作りこみが秀逸
今作はレーベル、ALcotハニカムの「ハニカム文庫」シリーズより発売となった。発売前から話題となった駄妹の野々宮藍をはじめ、ナツミンこと悠木夏海、一桜のメイン3人と、サブながら存在感のあった、多々良真奈先輩など、それぞれのキャラクターが親しみのもてるよう作られていた。
体験版の時にも言った通り、悠木春花の死を境に少々ごたごたしてしまった主人公たちのいびつとまではいかないまでも、不自然な関係からの脱却、そして音楽に再び向き合うまでの葛藤をきれいに描いていた。
・粗削りな部分も…
しかし、細部に目を凝らすと、まだまだよくなりそうな部分も多々見られた。
まず第1点。体験版最終部にあった、ピアノ四重奏「ハルカカナタ」演奏部。体験版感想の時にも書いたが、やはり強制オートでテキストを読ませながら音楽を聞かせるべきであったのではないだろうか。音楽を表現するうえでの独特の言葉の使い方だったわけだが、1文が短いため、ポンポン進んでしまう人もいるだろう。あの場面は、じっくり音楽を聞かせる場面であり、ユーザーを観客とする場面だったと思う。
第2点、シナリオがキャラクターに頼りすぎなことである。春季限定ポコ・ア・ポコ!という作品がキャラクター中心のゲームなのは確かだが、シナリオが力技で展開されたような箇所がいくつか見られた。
たとえば野々宮藍のルートにおける父と主人公の関係。疎遠だったはずなのにもかかわらず、電話の内容が完全なコメディになってしまっている点、唐突に出てきたキャラクターがシナリオ上重要なファクターとなっている点など。締めの部分がとてもきれいにまとまっているだけあって、途中の過程はスルーされがちであるが、もう少し丁寧に描くべきだったのではないだろうか。
・はるかかなた
今作において、BGM曲「はるかかなた」はOP直前、技量審査にて使用された。あの演出とテキストには鳥肌が立ったが、だからこその卒業式部分で使わなかった(使えなかった?)ことが悔やまれる。卒業式が、各個別ルートにあるため、そして、夏海ルートが固定で最後にならざるを得ないから共通最終部に持ってくるしかなかったのかもしれない。しかし個人的にはやはり、一番盛り上がる物語の締めで使って欲しかった。
ピアノ四重奏ということは、あくまで春花は「春花、彼方、藍、桜」の4人で演奏するためにこの曲を作ったということなのだろうか。そうであるならば、夏海というキャラクターに対して春花はどんな心境だったのであろうか。春花は夏海をハブにするような性格はしていないように思われる。春花でも夏海でも弾ける曲にしたのだろうか。
・締めるところはしっかり締めて
とはいうものの、シナリオ展開において、締めるべきところはしっかりと締めてきている。桜、藍、夏海と、どのルートでも、彼方は音楽というものに向かい合っている。家族関係やら春花の死やら、自暴自棄になってもおかしくないような環境下で、しっかり音楽に向き合える環境を周りのキャラクターが作り出している。真奈先輩は、そういった、シナリオには出てこないながらも、縁の下でしっかりと力を発揮していた。
夏海ルートED(グランドEDとでもいうべきだろうか)は、ほろりとくる演出。一年前とは違う、前を向いたんだということをしっかり示したいいEDだった。作品の中身などすっかり忘れ、ただただそのシーンに魅せられた。
・春花彼方
今作はBGMが非常に良かった。「運命と意志」「はるかかなた」をはじめとして、タイトル曲にいたるまで記憶に残るとてもいい曲だった。OP曲のAliareも、フルコーラスの歌詞を聞くと、ウルッと来てしまうような、作品にとてもマッチした曲だった。惜しむらくは予約特典のBGM、とある曲のタイトルが違っていること。電子データも違っていたから、渡したデータがそもそも間違っていたのであろうが、せっかくの品であるだけに残念だった。
・人生ポコ・ア・ポコ!
ちらほらと散見されたのが、タイトルにもある「ポコ・ア・ポコ」の中身、「少しずつ」である。直接は出てこないが、「ゆっくりと」といった意味に近い感じで、文章中に意識して使われていたように思う。とはいえ、不自然さは一切なく、きれいに使われたうえで作品がまとまっていた。余談だが、えっちぃシーンもポコ・ア・ポコだったな。
途中にまだまだもっとよくなるだろうというシーン、演出はあったものの、期待した通りのいい作品に仕上げてくれた。以前の作品はやったことがないので何とも言えないが、これらの経験から、より良い作品を作ってくれればいいと思う。新作も、ポコ・ア・ポコで作ってもらって、いい作品となることを期待したい。
個人的には悠木夏海が好きです。大多数は駄妹の藍ちゃんがお好きなようですが・・・。
ナ・ツ・ミン、ナ・ツ・ミン!
そんなわけでこの辺で。